大人の小学校への想い
校長インタビュー
1.大人の小学校を始めたきっかけ
鈴村:まずは、「大人の小学校」を始めたきっかけから、教えてください。
山城:最初は、パソコンのインストラクターから始めました。
主人の友達がパソコン教室をやるから、じゃあ、お掃除にでも行きましょうというのが始まり。
結婚する前、私は銀行員だったので、それが2回目の就職でした。
パソコン教室では、お掃除から、生徒さんたちの名簿の管理など、なんでもしました。
今から思うと性に合っていたんでしょうね、パソコンが。
私も習ってみたいと思って、よそのパソコン教室に通い始めました。
自分が働いている教室だと、ほら、自分のお仕事があるから(笑)
そこで、インストラクターの資格を取得しました。
インストラクターとしてデビューしたのは、ちょうど森首相(当時)の時代。
そのころ、各地で「IT講習会」が開催されていました。
ずっと、フリーのインストラクターとして、活動していて。
多いときは、9箇所ぐらいのパソコンサークルで教えていました。
鈴村:すごい。
山城:でも、パソコンって人によってスキルに差があるんです。
なかなか、みんなでいっしょに楽しむというわけにはいかなくて。
そのころ、ちょうどiPad2が出たんです。2012年ぐらいかな。
これだわと思って、iPadを12台買って、そろえました。
自分が教えていたパソコンサークルに配って、そのとき、参加してくれた人たちとiPadクラブを作った。
それが、「大人の小学校」の始まりです。
鈴村:なるほど。
山城:90歳を超えたころからだんだん弱ってきて。
ある日、父をデイサービスに迎えに行ったら、「もう、ここには来たくない」だだをこねるわけです。
どうして?って聞くと、「ここに来るのは、みんな、ヨイヨイなんだ」って。
鈴村:お父さん(笑)
山城:そう言ってるお父さんもヨイヨイだよ、と思ったのですが(笑)
そのときに、やっぱり「健康寿命」って大事だな、と感じました。
93歳で父は亡くなったのですが、その後娘が大学生になったときに、私も女子大生になりたいと思って大学に入ったんです。
大人の目線でもう1度、学習するのっていいなと思いました。
それと同時に、お年寄りが、頭も使って、体も使って、再学習できるような場がほしい。
そして、できれば歩いていけるところに、そういう場所をつくりたい。
それが「大人の小学校」の元になりました。
2.実際にどんなことをやっているか
鈴村:実際に高齢者の方が、どうやってiPadを使っているんですか。
山城:設定のやり方はもちろん、写真の撮り方や、写真を使って動画を作ったり。いろいろなことをして学んでいます。
使い方をただお伝えするよりも、バーチャル体験のようなものが楽しいですね。
同窓会の幹事になったと仮定して、ハガキでお知らせを作ったり。
みんなで写真を撮って、いろいろな背景をあてはめて、旅行へ行った気分になったり。
主婦歴何十年の方が、お料理レシピを作ったり。
鈴村:ホームページの作品集を見せていただきました。みなさん、かなりの上級者ですよね。
山城:今の生徒さんは、65歳オーバーの方ばかり。最年長は87歳です。
鈴村:男女比はどのぐらいですか。
山城:今は女性の方ばかりです。男性はスキルを覚えると、もういいと思っておやめになる方が多いですね。
女性の方が「楽しみたい」という気持ちが強いみたいです。
一流企業の部長さんとか、優秀な男性は難しいんですよ。
人に「これやって」「あれやって」と指示することに慣れてるので、だれかに教わるという経験がないんです。
いずれは男性限定の会とか、作ってみたいですね。
鈴村:コロナ禍でも、みなさん対面で通ってらっしゃるんですか。
山城:コロナになってからは、Zoomのクラスもやっています。
1クラス5人から8人ぐらいなんですが、最初は、全員がZoomに入るまで30分かかりました(笑)
今は5分前から開室して、みなさん慣れてるから、パパッと入ってこられますけど。
画面共有なんかもできるようになりましたよ。
一番最初にZoomのクラスをやって、みんなの顔が画面に映ったときに、1人の方がさめざめと泣かれたんです。
その方は、おひとりさまで、コロナで誰とも会えなくなったけど、こうやって、またみんなに会えて嬉しいって言ってくださって。
これは、やっぱりやらなきゃいけないなあ、という使命を感じました
3.大人の小学校は義務教育
山城:今はZoomを使ったシェア会なんかもやっているんですよ。
「気分転換はなんですか」とか「好きな季節はなんですか」とか。
テーマを決めて、Keynoteというプレゼントソフトを使って、発表してもらいます。
最初にくらべると、みなさん、どんどん話が上手になっていますよ。
ほめられても「いやいや」ではなく「ありがとう」と言えるようになりました。
鈴村:昨年、うちの父が亡くなったんですけど、ずっとガラケーしか持っていなくて。
亡くなる2ヶ月ぐらい前に、ようやくスマホを持たせたんですけど、
病気になってからスマホの操作を教えようとしても、全然上手くいかないわけです。
コロナ禍で、病院や介護施設は面会に行けないし、大変でした。
孤独だし、認知症も入ってくるしで、お医者さんや、介護士さんに暴言を吐いたりするんです。
LINEやZoomが使えたら、もっと簡単にコミュニケーションが取れて、いろんな話ができたのに、って。
山城:死ぬ前って、人間の本性が絶対に出るでしょう(笑)
私の場合は、母に急に呼び出されて、仕事を休んで介護施設に行ったら、「なんで来たの」と言われたりしました。
そこで、母が「ありがとう」って言ってくれたら、喜んで何回でも行くのにね。
鈴村:それ、すごくわかります!
山城:だから、教室でもみなさんにお伝えしているのは「本性を磨こうね」と。
年を取って、具合が悪くなったときに、お医者さんの話をちゃんと聞いたり、
自分のことをちゃんと説明できるだけで、全然ちがうじゃないですか。
だれもが、まわりに迷惑をかけて死んでいくわけで。
そういう時に、人に気持ちよく物事を頼めるかどうかは、大事だと思います。
鈴村:本当にそう思います。
うちの父も、最後の方は、ここまでワガママに、人の話を聞かなくなるのかと、愕然としてしまって。
山城:だから、Zoomのシェア会では、みんなのいいところを言っていこうねとか。
人の話をちゃんと聞いていないと、できないようなことをしています。
最初はみんな、自分のことしか興味を持ってないから、人の話が聞けないんです。
それが、だんだんできるようになってくる。
鈴村:素晴らしいですね。
山城:例えば、孫とコンタクトを取りたかったら、LINEはまずやらなきゃダメ。
うちはPayPayも教えているから、孫にPayPayでおこづかいをあげることもできる。
そうしたら、おじいちゃんすごいね、おばあちゃんすごいねって、尊敬の念を持ってもらえます。
おじいちゃん、おばあちゃんに「会いに行きたい」って思ってくれる人が、いっぱいいる人生の方が、幸せじゃないですか。
鈴村:そう考えると、「大人の小学校」は絶対に必要ですね。
まさに義務教育だと思います。
4.「70歳の壁」を軽々と超える
山城:大人になってから通った大学で、高齢者の心理学を勉強させてもらいました。
日本の高齢者の幸福度って、世界に比べるとすごく低いんですね。
元気で明るく生きている高齢者を見て、年を取るって楽しいなって、若い世代に思ってもらいたい。
鈴村:でも、高齢者に関することって、どこでも教えてもらえないんですよね。
父の時で実感しました。
山城:大人の小学校でやっていることは、あくまで練習であって。
ここで習ったことを、家族とかに使ってほしいんですね。
あと、わからないことがあったら、私だけに聞くんじゃなくて、家族や、まわりの人に聞いてほしい。
鈴村:聞けるのも才能のうちですよね。
山城:うちに来る生徒さんって、本当にかわいらしく、わからないことを素直に聞きますよ。
やっぱり、愛される高齢者にならないと。
ずっと、高齢者のための「朝のあいさつ運動」みたいなものを、やりたいと思っていたんですね。
朝、LINEで「おはよう」って送って、「おはよう」って返事がきたら、それが安否確認になるような。
このまえ、区の地域振興課の人と、お話しする機会があったんです。
今は、ほとんどの人が、スマホや携帯電話を持っています。
だから、町会の民生委員とかですね。
そういう人たちと連携すれば、私の夢もすぐにかなうんじゃないかと。
鈴村:孤独死の問題、私にとっても他人事じゃないです。
山城:今、オンライン診療も増えてきていますよね。
1日かけて、へとへとになりながら病院に行って、10分やそこらの診療で終わることが、
Zoomを使ったオンライン診療で、少しでも効率的になればいいなと。
鈴村:香港では、新型コロナのワクチン予約も、すべてスマホからです。
だから、スマホが使えず、ワクチンを打てなかった高齢者が、たくさん亡くなったりしています。
山城:うちの生徒さんたちは、ここでiPadを使っているから。
だれかに教えてもらわなくても、ワクチン予約が1人でできました。
鈴村:今後はもっと、なんでもスマホで、という世の中になっていくと思います。
ただ、新しいデバイス、新しいシステムは、どんどん出てきますよね。
自分も、いつまでついて行けるか、不安になります。
山城:人間には、「70歳の壁」というのがあって、どんな人でも、凝り固まってしまう瞬間があるんです。
自分のことだけで、精いっぱいになってしまうときがある。
これ以上、新しいことを覚えさせるな、って固くなっちゃうんですね。
それが、だいたい70歳ぐらい。
鈴村:怖い!
山城:どんなに好奇心があって、新しいものが好きな人でも、一度はそうなる。それが、70歳の壁。
でも、それを知っているだけで、全然ちがいます。
知っていれば、そうなったときに「来たな!」と思えばいい。
そういうことを、みなさんにお伝えしていきたい。
鈴村:父をここに通わせたかったです(笑)
そうしたら、家族も、そして父自身も、もっと違う形で、最期をむかえられたかもしれない。
山城:老いのまっただなかにいる人たちが、元気でいるっていうのを、もっともっと、みんなに見せたいですね。
そうしたら、すごく未来があることを、感じられるじゃないですか。
愛される高齢者を増やすことが、私の、そして「大人の小学校」の目標です。